真夜中のサーフロー 長嶋 信 1-10
球場をゆるく巡りて咲くつつじ昨日の空を遠景として
病院の通用門は球場と向かい合わせにあり医者になり
青年期引き延ばしたる末の今日コーラの鹹き氷を噛みつ
憧れを持たぬ齢に差し掛かる街のビル群坂下に見ゆ
<俺>と呼ぶことのなくなり曇りの日雲のむこうにまた雲がある
清算の響きだろうな かかん、 可換、 かかん 可換と貨物列車が
旧看護学校棟の日陰にて憩う一人として研修す
研修医マニュアル容れて内外の白衣の裾が膨れいるなり
黄昏れて西へなだるる巨雲を見やりて春の病棟に入る
しゅくしゅくとアルコール液を手に散らす 立ち止まるには広い廊下だ